ダイヤモンド

2022年 1月号

 重さ1.5カラットダイヤモンドが100万円の価値を持つのは、100万円で購入する人がいるからです。100万円の価値のある本物のダイヤモンドを手に入れるためには、100万円を支払わなければなりません。もし、ネット上で100万円のダイヤモンドが特別価格1万円で売られていたとしても、それを購入する人はいないでしょう。1万円で購入できるダイヤモンドが100万円の価値を持つ本物のダイヤモンドであるはずがありません。そんなものは偽物で、5千円の価値もないガラス玉に決まっているからです。
 
 さて、交通安全の価値はいかほどでしょうか。それはお金で買えるモノとは比較できないほどの価値を持っているはずです。命の価値が無限大であるならば、交通安全の価値も無限大だからです。しかし、多くのドライバーはその価値を低く見積り、1万円も出せばお釣りが貰えると考えているように思われます。
 あなたの安全意識は本物なのか、あなたの運転は本物の安全運転なのでしょうか。ダイヤモンドについては正しい評価ができるのに、交通安全の価値については誤解することが少なくありません。今、私たちが持っている安全意識、そして私たちの安全運転とは、実はガラス細工の偽物ではないのかと、今一度、疑ってみる必要があるはずです。
 
 一時停止場所では停止線の手前で確実に一時停止していますか? そんな場所で止まっても安全は確認できないからと、止まらずに左右を確認しながら進んでいませんか? 一時停止場所とは、左右を確認する場所ではなく、一度確実に停止することによって事故を防ぐ場所なのですが、それを知らずに止まらないドライバーは少なくありません。その結果、出合頭の交通事故は減らず、今でも全体の25%以上を占めています。
 あなたは十分な車間距離を空けて運転していますか? 道路交通法では、前の車が急停止しても追突しないだけの距離を保つように規定されていますが、それだけでは不十分です。例えば、片側一車線の交通量の多い道路を通行するとき、十分な車間距離を空けて運転していれば、対向車の右折を優先させることによって対向車線の渋滞を解消させることができます。つまり、車間距離を保った運転とは、自分の追突事故を防ぐだけではなく、譲り合うことによって安全で快適な交通環境をつくるという最も基本的な、そして大切な運転行動であるという理解が大切です。
 
 大半のドライバーは、自分は安全意識を持って安全運転を行っていると思っているようですが、それは、周囲の杜撰な運転と比較したり、これまでに事故を起こさなかったという自分の経験を過信しているだけではありませんか。だとすれば、これまで事故を起こさなかったのは偶然に過ぎず、そこに本物としての価値を認めることはできません。
 そもそも、100万円の安全運転とは100万円を出しても手に入れる価値がある運転ということになりますが、たとえ1,000万円の安全運転であっても、そこに事故を起こさないという保証書が付いてくることはありません。
 それでも安全運転に価値を認めることとは、交通事故を防ぐことがどれほど大事なことであるかを本当に知っているということです。過去に交通事故を起こした経験などなくても、交通事故という現実について向き合い、それを避けることの価値を正しく認めることができるということなのです。
 1万円でお釣りを貰える安全運転や他人と同じ程度の運転で満足するのではなく、そこに命と同じ価値を認め、保証などなくても安全運転に努め、続けることができる人こそ、本物のダイヤモンドのように光り輝くドライバーに違いないのです。