子どもは車内で事故にあう

2017年12月号

 お母さんたちに向けて「お子さんはどこで交通事故にあうのかご存じですか?」と問いかけると、怪訝そうな表情が浮かぶ。「交通事故にあう場所なんて、道路でしょう?違うの?」
 平成28年中、交通事故でケガをした4歳以下の幼児は全国で7,633人である。そして、歩行中は1,034人、自転車乗車中が658人、最も多いのは自動車乗車中で5,906人である。つまり、交通事故でケガをするその77%は車の中でした。その比率は年齢層の上昇に伴って変化し、5歳から9歳になると、歩行中が倍、自転車乗車中は3倍になり、自動車内は46%になる。
 10歳未満で区切ってみると、子どもが交通事故でケガをする場所は、道路上(歩行中や自転車乗車中)が44%、車内が56%となる。そして、この年代のお子さんは車を運転しない。つまり、お子さんが交通事故にあう場所とは、お母さんやお父さんが運転している車の中である、ということになります。
 ぶつけるかぶつけられるかはともかくとして、これが現実であることを踏まえて問いかけます。「それでもチャイルドシートを着用させずにお子さんを乗せて運転しますか?」
 その問いかけに対して答えはさまざまです。「チャイルドシートの費用がもったいない。」「子どもが泣いて運転に集中できない。」「子どもがいやがる。」など、消極的な意見も聞こえてきます。
 しかし、その結果として発生した惨劇は、消すことも忘れることもできません。命を失うことだけではなく、お子さんが顔面を複雑骨折したり、大きな後遺症が残ったりする、そんな例は決して少なくありません。

 全国で、過去5年間に自動車乗車中の交通事故で死亡した6歳未満の子どもは56人であり、このうちチャイルドシートを着用していなかったのは40人、71%にのぼる。また、チャイルドシートを着用しなかった場合の致死率は、着用した場合に比較して約10倍(平成28年中)とのことであるが、10倍だから着用するのではなく、それが2倍であっても着用する価値を認める必要があると考えています。
 私たちは、記憶を消して生きていくことはできません。もちろん、人生は決して楽しいことばかりではなく、すべての人の人生には辛いことも悲しいこともあるはずです。それでも私たちは、取り返しのつかないことや思い出しては後悔することを避けようとしています。それを知恵というのではなかったでしょうか。
 私たちの社会の子どもたちが、私たち以上に自由で充実した人生を送ることができるように、私たちはできることを重ね、その後を子どもたちに委ねること、それこそが私たちの果たすべき役割ではないでしょうか。

 交通事故を予想し、思い描き、その結果を避けるために必要な行動をとること。チャイルドシートを購入し、正しく設置する手間を惜しまず、子どもが泣いてもなだめて座らせる面倒を厭わないことです。そうした知恵を失わず、手間を惜しまないことが、大切な子どもたちとその将来を守っていくのだと考えています。
 「多分大丈夫、きっと大丈夫、私は大丈夫…。」そんな根拠のない言い訳にすがっても、ひとたび事故が発生してしまえばその惨劇を消すことはできません。何度後悔しても現実は変わらず、忘れることもできません。

 もう一度問いかけます。「それでもチャイルドシートを着用せずにお子さんを乗せて運転しますか?」