警察官が交通違反を取り締まる理由 その2

2017年 7月号

 一年半後、検挙件数は市内免許人口の約1.5%になった。そして、子供の事故と横断中の事故は約30% も減少していた。

 署長は説明した。
 「違反であることを知らないドライバーをいきなり検挙するのは厳しすぎる、反発を招くという意見は理解できます。しかし、この1年半の取締活動を検挙ではなく指導警告で済ませていた場合、減少した子供や横断中の事故は、30% ではなく1.5%にすぎなかったと思われます。私たちの仕事は事故を減らすことであり、検挙活動はその方法にすぎません。この取締活動は、免許人口の1.5%を検挙することで約30% のドライバーの意識を変えることができたとの仮説も成り立ちます。1.5%ではなく30% のドライバーの意識を変えること、それが私たちの仕事だと考えています。
 この取締がこれからも継続されることによって、横断歩道で止まることがこの地域の中で定着していきます。最初は検挙されないために横断歩道で止まっていたドライバーも、それを繰り返すことによって止まることに違和感を感じなくなり、止まることが習慣となります。そして、多くのドライバーがこうした運転行動をとることによって、それが地域の交通環境として定着していきます。
 横断歩道で止まる運転が定着することによって、将来、今の子供たちが最初から止まるドライバーに育つこと、これが交通環境の変化であり、横断歩行者妨害という違反を取り締まる目的です。
 交通違反を取り締まる目的とは、将来に向けて交通環境を変化させることであり、その結果として交通事故の総量を堅実に減少させていくことにあります。
 もちろん、この取締を続けることだけでいつまでも減少傾向が続くことはありません。必ず増加に転じることがあります。そして、減少傾向が頭打ちになった、あるいは増加に転じたとき、その効果がなくなったのだから他の取締に重点を移すべきだと考えがちですが、それでもその効果を信じて続けていくことができるかどうかが将来における大きな課題です。
 事故が減少を続けている間だけではなく、小学三年生がドライバーになるまでの十年間、横断歩行者妨害違反の検挙を市内全域で、かつ、継続的に続けることが必要です。それによって最初から止まるドライバーが生まれ、育ち、その結果、本当に新しい交通環境が生まれるのです。それこそが、警察活動である交通取締活動の目的だと私は考えています。」

 私たちが行動するとき、その方法は自分自身の価値観に基づいて選択されています。その価値観とは、これまで生きてきた経験を通じて身についたものであり、それに疑問を持つことや変えていくことは簡単ではありません。
 でも、もう一度考えてみませんか。自動車を運転するときに自分が持っている価値観と、それに基づく運転の方法について。
 交通違反をしない安全運転の価値、皆さんも見つけてみませんか?