食の安全と交通安全

2018年10月号

 野菜を調理する前に水洗いしますか?加熱用の魚肉類はきちんと火を通しますか?そしてこんな質問、バカげていると思いますか?

 食材を選んで買い物をする女性の姿はごく普通の光景であり、多少割高であってもつい国内産の食材を選ぶ。県内では、田原のキャベツ、豊川のほうれん草、愛西市の大根、碧南のニンジンなどが知られている。そして、その食材を調理する前に水洗いすることなどは当たり前であろう。
 スーパーでお子さんと一緒に買い物をするお母さん、食材を慎重に選ぶ姿からは食の安全に対する配慮が十分に感じられる。しかし、買い物を終えて車を運転する姿に交通安全への意識は感じられない。そのお子さんが助手席のダッシュボードに手をつき、立って外を見ているからである。そんな状態で車を走らせるお母さんに交通安全意識など認めることはできない。
 もし追突事故を起こせば、お子さんは顔面を複雑骨折するなど、一生消えない傷を負うことになる。そんな事故はいくつも起きている。全国に例を求めれば、衝突の勢いでお子さんが車外に放出され、母親の運転する車がお子さんを轢いてしまったという凄惨な事故さえ発生している。

 野菜を水洗いもせずにサラダとして食べさせることなど誰もしないであろう。加熱用の魚肉類に火も通さず、生のまま食べることなど考えられないであろう。しかし、シートベルトやチャイルドシートを着用させずに子どもを乗せて運転することは、それ以上に危険な行為なのだ。

 厚生労働省の統計によると、平成29年中の食中毒患者数は16,464人、死者数は3人である。また、警察庁の統計によれば、交通事故の負傷者数は580,847人、24時間死者数は3,694人、30日以内死者数は4,431人である。
 つまり、昨年は食中毒で亡くなられた方の約1,500倍の方々が交通事故で命を失っている。平成20年からの10年平均では約1,000倍である。

 食の安全への配慮が不要だとか、過剰だということではない。交通安全への意識について、その価値について、私たちは何かを忘れているのではないかということである。
 自動車とは、安全で快適で便利な乗り物であり、人を運び、物を運び、幸せを運ぶものであったはずである。決して人を傷付けるために作られたものではない。にもかかわらず、多くの人を傷付け、時としてその命を失わせている現実に対して、私たちはもっと真摯に向き合い、その原因について考えるべきではないのか。

 野菜を水洗いするように、車を運転する場合にはシートベルト、チャイルドシートを着用することが常識にならなければならない。魚肉にきちんと火を通すように、運転している間は運転に集中しなければならない。十分な車間距離を空けて追突事故を防ぎ、一時停止場所では必ず停止線の手前で停止して出会い頭の事故を防ぐことによって、全体の6割以上の事故を防ぐことができるのだ。

 私たちの交通安全意識の低さに気付き、交通安全への意識を高め、取り戻す必要がある。
 食の安全と交通安全の意識が同じになれば、交通事故死者数も食中毒による死者数に近い数、現在の千分の一ほどにすることができるのではないか、そう願わずにいられない。