チームワーク

2021年10月号

 K警察署長当時、管内で強盗殺人事件が発生した。
 K署には、捜査第一課をはじめ周辺警察署の捜査員が応援に駆けつけ、K署は刑事課以外の課からも捜査員を出すことで約100人態勢の捜査本部が設置された。
 そして、初動捜査からそれぞれの捜査員が与えられた役割を果たした結果、早々に犯人を逮捕し、必要な証拠を収集することができた。事件捜査は犯人の逮捕で半分、後の半分とは証拠の収集である。その証拠によって犯人を起訴し、有罪を確定させることまでが捜査の役割であるが、それもほぼ万全であった。
 
 事件が起訴された日、捜査員の前で私は話した。
 「勝負の結果を左右するもののひとつがチームワークですが、チームワークで勝てるのはアマチュアであり、プロは勝つことによってチームワークが生まれます。
 私たちは事件捜査のプロであり、一人一人がその役割をきちんと果たすことによって事件という勝負に勝ち、勝つことによって新しいチームワークを生みだしています。つまり、プロは勝つことによってチームワークが生まれ、力となって蓄えられ、プロとしての組織ができるということです。
 この事件捜査に従事した約100人の皆さんは、それぞれの役割をきちんと果たしてくれました。たとえそれが一枚のコピーを取ることであっても、責任を持ってその役割を果たしたこと、それらの積み重ねによって今回の事件は早期検挙、起訴という結果に結び付いたと考えています。そして、私たち特別捜査本部の捜査員は新しいチームワークを手に入れたということであります。
 捜査の終結によってこの特別捜査本部も解散され、皆さんはそれぞれの警察署に戻ることになりますが、皆さんにはこの捜査本部で得たチームワークを持ち帰り、それぞれの警察署で発生する新たな事件捜査を通じて、各警察署に更に新しいチームワークを生み出していただきたい。その積み重ねこそが愛知県警察の力であります。そして、どこの警察署にいても愛知県警はひとつであり、私たちは1万4千人のひとりであります」
 
 その翌日、捜査本部員以外の署員に向けてもうひとつのチームワークについて話した。
 「先日発生した強盗殺人事件は早々に解決することができました。それは特別捜査本部のチームワークの成果でもありますが、私はもうひとつのチームワークを感じています。それは、捜査本部の捜査員ではなかった皆さんのチームワークのことです。
 強盗殺人事件が発生しても、普段の仕事が減ることはありません。交通事故が減ることもなく、様々な警察事象は変わらずに発生しています。そして、捜査本部要員を各課から出すことによって、仕事の負担は残された皆さんが負うことになりましたが、皆さんは愚痴をこぼすこともなくその役割を果たしてくれました。
 事件捜査を支えるもうひとつのチームワークがここにあり、このふたつのチームワークによって、私たちは市民に誇ることのできる事件捜査を遂げることができたのだと考えています。
 ……さて、今年も夏が終わりました。生きている限り、毎年、暑い夏はやってきますが、来年春に定年退職する私は、二度と夏の制服を身に付けることはありません。同じように、今日のこの一日も、二度と訪れることのない、かけがえのない大切な一日であります」
 
 交通事故防止こそチームワークの意識が必要です。
 一人一人が安全運転を続けることで無事故・無違反を重ね、職場全体のチームワークとして安全運転の価値を共有し、それを家族にも伝えていくことです。そうすれば必ず事故を半減させ、死亡事故をなくすことができると、私は本気で考えています。