ドラレコを活用した安全運転管理

2018年 3月号

1 概要
 昨年6月に神奈川県下の高速道路で発生した事故により、個人ユーザーではドライブレコーダーの設置が急増した。しかし、事業所においては未だに低調であり、ドラレコを導入する事業所であっても、設置するだけで将来的に事故は減少するとの思い込みがある。あるいは、事故発生時の証明に役立てばいいと単純に考えている管理者が少なくない。
 自動車本体の安全性能が向上している今日こそ、事故抑止に必要なものはドライバーの安全に対する意識であり、ドラレコを活用した個々のドライバーに対する管理・指導である。つまり、事業所の事故抑止対策とは、ドラレコを導入することではなく、それを活用していくことにある。

2 ドラレコ効果の継続的な確保
 「リスク・ホメオスタシス理論」の指摘もあるが、事故を将来的に抑止していくためには、個々のドライバーが持っているリスクの目標水準を変化させることが必要である。ドラレコを設置するだけでは事故抑止効果は一時的にとどまり、事故発生時の証明に使用するだけではドラレコ導入の効果は薄い。
 ドラレコの事故抑止効果を継続させるためには、個々のドライバーに対する個別の管理・指導が不可欠である。ドラレコを活用した個別管理により、通常は事故発生時まで不明確な個々人の運転行動(リスクテイキング)を事前に確認してコントロールすることが可能になり、これによって継続的な事故抑止効果を確保することができるからである。

3 管理負担の軽減と損害保険
 個々のドライバーに対する管理・指導を行うためには相当の負担が生ずるが、その負担は保険会社に委ねることで軽減することも可能である。費用負担は生ずるが、事故が発生しないことによって利益を受けるのは本人や会社のみならず保険会社も同様であり、その利益は一致している。

4 保険のコストとベネフィット(利益)
 コストとは保険料であるが、ベネフィット(利益)とは事故の発生に伴って支払われた保険金額ではなく、事故抑止(減少)による生産性の向上である。
 例えば、保険料金の総額が年間100万円、事故が3件発生してその修理費として60万円が支払われた場合、「60万円がベネフィット、40万円が損失」ではない。また、ドラレコ管理を含めた新たな保険料金が100万円増額されて総額200万円となったが、その結果として事故が2件減少して1件(修理費20万円)になった場合、「ベネフィットが20万円、損失が180万円」なのではない。
 ベネフィットについては、事故の発生に伴う当事者社員及び関係社員全体の生産性低下コスト(事故対応コストを含む。)を評価する必要がある。生産性低下コストの総額が1件60万円だとすれば、100万円の増額によって120万円のコスト削減効果があったことになる。つまり、損害保険とは事故発生時の損失補償だけではなく、事故を抑止・減少させるためのコストだと考えることができる。

5 まとめ
 ドラレコの管理・活用の負担を保険会社に委ねるか否かはそれぞれ事業所の判断であるが、ドラレコを導入するだけではなく、それを活用した管理・指導を行うことによって、継続的な事故抑止効果が期待できることは確かである。