事故と車と私たち

2020年 3月号

 自動ブレーキについて、国は本年中に新車乗用車搭載率を9割以上とすることを目標として掲げており、占有率でも乗用車の3割以上となることが見込まれている。また、国内メーカーが2021年11月以降に販売する新型乗用車(軽乗用車を含む)に自動ブレーキの搭載を義務付けることが既に発表されている。
 いよいよ自動車の安全機能は進化し、事故被害の軽減から事故発生そのものを抑制する時代を迎えようとしている。しかし、安全運転サポート車(サポカー)とは、自動的に事故を防いでくれる車ではない。にもかかわらず、サポカーを購入しただけで、事故を起こさない安全を手に入れたと勘違いしているドライバーは少なくない。しかし、それは大変な誤解、勘違いである。

 そもそも自動車とは、安全、快適で便利なものであるはずなのに、毎日多くの人を傷付け、時にその命を失わせてしまうことがある。それは、自動車部品の不足なのではなく、私たちドライバーの安全意識が欠落しているからである。運転する私たちの安全意識が不足しているために、安全で快適に走行できるはずの自動車が事故を引き起こし、自動車は危険で不愉快なものとなる。

 さて、自動車を運転するのが私たち人である以上、人として、運転行動に伴う過失をゼロにすることは不可能であり、不可能を期待することは無益である。安全意識を持つこととは、ミスや過失をゼロにすることではない。
 現在を生きるドライバーの義務と責任とは、自分のミスや過失を可能な限り抑制することだけではない。歩行者を守り、歩行者の過失を自らの運転行動によって引き受け、事故を回避することが求められているからである。例えば、夜間、高齢歩行者が黒い服を着て横断歩道ではない場所を横断していたとしても、それを発見して衝突を回避することが現在のドライバーの義務であることを理解し、それを自らの運転行動の規範とすることなのだ。
 事故を防ぐために必要なものとは、誰かのミスを誰かが補うことである。互いに支え合おうとするドライバーの安全意識こそが誰かのミスを補い、事故に発展させることなく回避することを可能にする。つまり、私たちが持つべき安全意識とは、誰かのミスや過失が事故に発展しないよう、互いに支え合い補い合うことを基本とするものだ。
 
 すなわち、サポカーを購入するだけで安全を手に入れることはできない。自動ブレーキが装備された自動車だから事故など起こさなという思い込みは幻想である。自動車の安全機能とは、ドライバーの安全意識を支える機能であり、安全機能だけで事故を防ぐことはできない。つまり安全とは、自分で手に入れるべき現実のことである。
 そして、安全を手に入れる方法とは、自分の足で思い切りブレーキを踏むことである。私たちの運転する自動車は、どれだけ強くブレーキを踏み込んでもブレーキペダルが折れることはない。そして、タイヤはABSという機能によってスリップすることなく自動車をコントロールし、事故を回避することができる。

 安全とは、誰かが独占すべきものではないし、独占できるものでもない。安全はあなただけのものではなく、あなただけの安全も存在しない。安全とは、多くの人たちと共有し、それが広まることによって初めてその効果を発揮して現実のものとなり、新しい交通環境を創造するものなのだ。