今年の課題(その2)

2020年 2月号

 21世紀を目前に控えた1997年、世界初の量産ハイブリッド自動車としてプリウスが発売されました。そして、ハイブリッド車は平成25年に乗用車の5%を超え、平成30年には12.2%と急速に増加しました。
 既に、環境問題は世界的に取り組むべき課題とされており、環境問題を省エネ・経費節減に置き換えた私たちドライバーは、ハイブリッド車でなくてもゆっくりと発進するだけで燃費が向上することを知りました。環境問題と省エネ・経費節減の発想が私たちドライバーの運転行動に変化を与えたのです。

 20年前、信号交差点で大型車や軽自動車の後ろに止まった普通車のドライバーはガッカリしていました。大型車や軽自動車のゆっくりとした発進に付き合わされ、自分のペースでグッと加速することができないからです。
 しかし、ハイブリッド車が増加し、その後ろからゆっくりと加速して走ることを繰り返すことによって、ハイブリッド車でない車のドライバーもゆっくりとした発進に慣れ、違和感を感じなくなりました。そして、エコ運転によって燃費を向上させることに価値を認め始めたのです。エコという感覚がドライバーの運転意識を変化させ、ゆっくりと発進することがトレンド(時代の趨勢、潮流、流行)になっていったのです。

 エコ運転とは、簡単に言えば「ゆっくり発進」「ゆっくり停止」「適切な車間距離」です。
 「ゆっくり発進」することは事故抑止、被害軽減に大きな効果があります。例えば人身事故の35%を占める「追突事故」では、「ゆっくり発進」することによって事故を防いだり、追突してもその衝撃が軽減されます。また、人身事故の25%を占める「出会い頭事故」でも「ゆっくり発進」することで事故を避けたり、その被害を軽減することができます。
 「ゆっくり停止」とは、遠くの交通状況を確認することにより、先の信号灯火が赤であれば早めにアクセルペダルを離し、HV車であれば回生ブレーキを効かして充電しつつ、急ブレーキを踏まずに停止する運転です。こうした先の交通状況を確認することは、すなわち視野を広くすることであり、周囲の車両等の動きを確認することで事故を抑止する効果があります。
 「適切な車間距離」を保つことの効果については改めて説明するまでもないでしょう。

 つまり、ハイブリッド車の増加とこれに牽引されたエコ運転こそが、私たちドライバーの運転行動を変化させ、この5年間の人身事故抑止に大きな役割を果たしていると考えられます。
 そして、これからは、自動車安全機能の進化が事故の減少傾向を支えていくのだと思われます。いわゆる「衝突被害軽減ブレーキ」を搭載した乗用車は、今年中に販売台数で90%、保有台数で30%を超えると予測されています。

 こうした新しい交通環境の中で、私たちがこれから取り組むべき交通安全活動は何かを考えた時、私は今こそジェラルド・ワイルド博士の言葉を思い出すべきだと思っています。「自動車の安全性能が向上しても、交通事故は減少しない」(リスクホメオスタシス理論)。すなわち、
  「交通事故を減らすために必要なもの、それは何よりも私た   ちドライバー自身の安全意識である」
 この言葉こそ、新しい交通環境の中で私たちが目指すべき今年の課題なのだと考えています。