健康管理

2022年 2月号

 病気になって健康の大切さを知るが、痛みが和らぎ、病気が回復するといつの間にかそれを忘れてしまいます。
 人間ドックの結果、膵臓腫瘍の疑いがあるとしてCT検査を受けた。医師はCT画像を眺めながら、「中央と尾部が黒く見えますが、この黒くなっている部分が腫瘍か何かだと思わますのでMRI検査を行います。もしこれが悪性なら、膵臓全体を摘出します」と伝えられた。普段から心配性で悲観的な私は最悪を考えて消沈した。
 
 これまでに先輩や友人を膵臓癌で亡くしているが、健康管理に原因があったのではないことを思えば、癌から逃れることなどできないのではないかと思った。
 一方、交通事故は防ぐことができる。ならば、安全運転の大切さを知り、それを実行することとは、健康管理の何倍も現実的な必要があるはずなのに、私たちはあまりに無自覚のまま運転を続けているのではないかと、改めて考えさせられた。
 
 清潔な野菜でも丁寧に洗い、賞味期限・消費期限を確認するなど、食の安全に対する配慮は徹底されているが、安全運転への配慮はとても十分とはいえない。
 夜間、郊外の片側一車線、規制速度40km/hの道路をほとんどの車の速度は50km/hを超え、前照灯もロービームのまま走行している。そして、横断歩道でない場所を黒い洋服を着た高齢者が横断することによって死亡事故が発生する。そのとき、ドライバーはこんな供述をした。
 「私は10年以上、仕事の帰りは同じ道を同じように走っていました。制限速度が40km/hであることは知っていましたが、他の人も55km/h位で走っており、自分だけが速度を守ると後ろの車に迷惑なので、同じように55km/h位で走っていました。
 帰りは午後8時頃ですので、当然ヘッドライトはつけます。ハイビームをやってみたこともありましたが、うっかりそのまま走って対向車に迷惑をかけたので、それ以後は使わないようにしています。 それでも、これまで事故を起こすことはありませんでした。
 今回も、いつもと同じように運転していましたので、高齢者の方が黒い服を着て、横断歩道でもない場所を渡っていなければ、私は事故を起こすこともなかったはずです。私は運が悪かったのだと思います」
 私は伝えた。「運が悪かったのではありません。速度を抑制するかハイビームを活用すれば避けることができた事故でした。なのに、あなたはそれをせず、漫然と運転して死亡事故を起こしたのです。運が悪かったのではありません。悪かったのはあなたです」
 
 交通違反で検挙されず、何もない時に事故を起こさない運転が安全運転なのではありません。
 歩行者や自転車が飛び出してきたとき、前を走っていた車が急ブレーキをかけたとき、対向車が急に右折してきたとき、そんな時でも事故を回避することが求められています。仮に事故を回避できなくても、その被害を最小限に抑制するための注意深い運転、これこそが私たちの目指すべき安全運転の本質です。
 防ぐことのできない病気は少なくありませんが、安全運転を続けることで交通事故は確実に防ぐことができます。そして、交通事故は相手の命を傷付けるだけではなく、被害者家族の人生、自分や家族の人生までをも奪うという現実を考えれば、安全運転とは、もっと本気になって取り組む価値のある課題であることがわかります。
 幸い、私の膵臓はとりあえず、摘出を免れました。これまでのように、しばらくすれば健康の大切さを忘れてしまうのかもしれませんが、交通安全の価値、安全運転の大切さだけはこれからも決して忘れないに違いありません。