安全運転管理者の仕事

2021年 4月号

 道路交通法は第74条で「車両等の使用者は、安全運転管理者を選任し、運転者に法令を遵守させなければならない」と定め、道路交通法施行規則第9条の10で「運転者の適性等の把握」、「運行計画の作成」、「運転者の安全運転指導」など従来の7項目に加え、「酒気帯びの有無の確認及び記録の保存」(令和4年4月1日施行)、「アルコール検知器の使用等」(施行日未定)の全9項目を安全運転管理者の基本業務として明記している。しかし、これに沿って形式的に業務を進めるだけでは、その役割を果たすことができない。
 
 安全運転管理者に対する会社、上司の期待とは「事故の減少」である。前任者と比較され、前年比でも減少させることを期待されるなど、短期的な結果が求められるのが実情であろう。しかし、交通事故の抑止対策とは本質的に長きにわたる課題であり、着実な減少につながる継続的な対策こそが重要である。
 事故の増減は安全運転管理指導の結果とはいえ、常に明確な因果関係が存在するものではなく、正しい安全運転指導が常に必ず事故の減少をもたらすものではない。安全運転の指導と結果の間には常に誤差や偏差、時差が存在するからである。
 そもそも事故抑止・事故減少を実現することの価値とは、単なるコスト削減ではなく、会社の名誉・看板を守るためでもない。交通事故抑止対策をコスト削減策だと考えるから、社員に対して事故減少という結果だけを要求することとなり、やらされ感の強い、義務的な活動になる。そして、会社の名誉・看板とは、すべての社員が自分の会社に対して誇りを抱き、それぞれの立場から力を合わせて守り続け、高めていくべきものであり、事故防止にその役割を期待すべきではない。
 
 さて、会社という組織に所属し、その一員として仕事をしていく場合は常に上司に仕えることになるが、上司の指示に従った仕事が常に正しいとは限らない。例えば、組織(会社)が発展していくためには常に将来を見据えた対策が必要であるが、それを上司が失念し、当面の対策のみを求めていたとすれば、上司の意向に沿うことが正しいとはいえないからである。
 もとより、上司にはわきまえを持って接し、その指示は尊重する。しかし、仕事の目標とするものとは、その先の組織としての目的を踏まえて見極める必要がある。上司には仕えるが、常に組織目的に仕える意識を忘れてはならないはずである。
 自分が全力を尽くして仕えるべきは、現在の上司だけではなく、将来に向けて成長・発展を遂げようとする自分の組織(会社)である。現在の上司にのみ従うこととは、組織目的の実現という、より大きな課題に向けた努力を放棄することであり、それが部下の役目だと嘯(うそぶ)く姿とは、単なる言い訳、自己保身に過ぎない。
 
 安全運転管理者には、詳細な計画の立案やその徹底を要求する前に果たすべき役割がある。それは、安全運転の価値を正しく理解し、その実現に向けて部下職員と共に取り組むことを決意することであり、それを自分自身の言葉で表現することである。
 「社長の指示だから」と丸投げすること、「あれをしろ、これをしろ、気をつけろ」「事故するな」と叱咤し、(事故が発生すると)「事故するなと言っただろう!」と激怒することが安全運転管理者の仕事ではない。百歩先から「お~い、こっちだ!」と叫ぶことではなく、社員の後ろから追い立てることでもない。安全運転管理者として行うべきは、安全運転の価値、その目的を部下職員と共有し、一歩でもいいから一緒に進むことである。
 安全運転管理者としての存在価値とは、社員を交通事故から守ることを通じて会社を発展させようと決意し、実行することである。