安全運転管理者の社会的役割

2024年4月号

 交通事故を防ぐことができるのはドライバーだけなのだろうか。もちろん、最も重要な鍵を握っているのはドライバー自身であることはいうまでもない。他の誰でもなく、ドライバー自身が十分に注意して安全運転を続けるのであれば、交通事故は半減し、死亡事故はなくなっていくはずである。しかし現実は、ほとんどのドライバーが漫然と、過去の経験を自己過信にすり替えて運転を続け、その結果、事故が半減することもなく、死亡事故がなくなることもない。
 それを阻害している要因について考え、ドライバー以外の者がそれを取り除くことはできないのだろうか、という疑問がある。
 
 事業活動では自動車が様々な形で活用されているが、自動車の活用は交通事故という危険を抱えているため、その危険性を排除するために使用者(会社の経営者)に対して、法は必要な義務を規定した。それが道路交通法第74条、「車両等の使用者の義務」である。
 しかし、使用する自動車の数が多数である場合には、使用者本人が法で定められた個々の義務を果たすことが困難であるため、事業所ごとに安全運転管理を行う責任者を指定し、その者によって事業所における交通安全教育等、交通事故防止のための措置を講じることとされた。これが安全運転管理者である。
 
 さて、ドライバーが交通事故を引き起こす原因は法令違反と過失であるが、法令違反は故意である。
 では、ドライバーが敢えて法令違反を犯すのは何故なのかを考え、それを避ける方法を考えたとき、それを可能にするのはドライバーだけではないことに気づく。
 ドライバーの運転行動とはほぼ習慣的行動である。制限速度が40km/hの道路を55km/hで走行するドライバーは、「自分だけが速度を守ると後ろの車に迷惑がかかる」と言い訳しながら、後ろに車がいなくても平然と55km/hで走り続ける。
 こうした習慣的運転行動は、事業活動に伴う運転によってもたらされたものではなく、業務とプライベートを問わず繰り返され、積み重ねられ、事故を起こさない限り成功体験として自己過信の根拠となり続ける。
 
 多くの安全運転管理者は、事業所における交通事故防止をその役割とするため、業務中の事故防止に意識を奪われ、その範囲で目的を完結させようとする。しかし、運転行動が習慣的行動であること、運転行動は業務中も通勤中もプライベートでもほぼ同じであることを考えれば、その方法で得られる効果は限定的である。
 つまり、業務中の事故を防ぐためには、ドライバーの平素の運転行動にも影響力のある指導でなければその目的を達成することはできないということである。事業所の業務中の事故を減らすための指導とは、ドライバーの平素の運転による事故を減らすものと同義であり、それは業務で車を運転しない他の多くの社員に対しても、その運転に影響を持つことが期待されている。
 
 平素の運転行動を含めて指導する社会的機能が法規制であり、警察による取締活動等であるが、それも限定的であることを考えれば、安全運転管理者による指導は社会的にもその重要性は高い。つまり、安全運転管理者とは、現在の、そして将来の安全で快適な交通環境を築き上げるための重要な役割を担い、期待されている存在に他ならない。
 すなわち、安全運転管理という業務は、私たちの社会全体に向けてその影響力を及ぼすべきものである。そして安全運転管理者とは、事業所だけの交通事故防止ではなく、社会全体の事故防止につながる役割を担っており、それこそが安全運転管理者の果たすべき、そして果たすことのできる社会的な役割に他ならない。