水か空気か?

2019年 7月号

 水と空気では、どちらが大事なのでしょうか。空気がなければわずか10分ほどで命は失われますが、水がなくても数日間は生き延びることができそうです。しかし、だからといって空気の方が大事だという答えが正しいとはいえません。水と空気の関係、その重要性は択一関係にはないのですから、この質問そのものが成立していない、つまり、答えはないのです。

 では、安全と利益ではどうでしょうか。安全ばかりを優先すれば、時間や手間がかかり、負担もコストも増加して利益を圧迫します。しかし、利益ばかりを追求して安全性がなおざりにされれば、その利益の向上は一時的なものとなり、将来的な発展など期待できません。つまり、安全と利益の関係も、水と空気との関係がそうであるように、それぞれが不可欠であり、択一関係にはありません。
 そして、安全と利益の関係とは、双方のバランスを保つだけではなく、それぞれが互いに支え合う関係にあることが求められています。しかし、ある上司は安全第一を指示し、違う上司は利益優先を指示したりするため、部下は安全と利益は支え合う関係にあるのではなく、建て前と本音の関係にあるのだと考えてしまうのです。これでは、せっかくの仕事も指示されることを我慢して行うだけのものとなり、働きがいを見出すことはできません。
 安全第一を指示した上司は、その時、重大な事故に発展しかねないトラブルが発生したために安全第一を指示したのですが、その背景や意図が組織内に伝わっていませんでした。次の上司は、先のトラブルも知らず、今こそ利益を出すべき時期だと考えて利益第一を指示したのですが、部下にはその狙いが伝わっていなかったのです。そのため、相反する指示を受けた部下たちはどちらの指示も徹底することはできず、不信感を抱きながら仕方なくそれに従うふりをすることになります。
 そこに不足していたのは組織内の信頼関係であり、コミュニケーションです。ほとんどの場合、社長(リーダー)が示す方針とは、過去の経験を踏まえ、様々な状況について熟慮した上での判断によるものです。しかし、部下がその意図を理解せずに、その言葉だけを社長の指示だと伝えれば、指示された社員はその方針以外の選択肢を失うことになり、最悪の場合には「私は反対なんだが、社長が言っているから我慢しろ」と無責任な指示にすり替わってしまいます。
 上司の指示、方針について、その趣旨・目的・必要性などを理解しておくことは、責任を持って仕事を進めるためには当たり前のことであり、もし疑問があれば、確認して解消しておくことも大切な仕事のひとつです。しかし、上司の指示を理解しようともせず、その指示を部下に丸投げする不埒な幹部とは、いつの時代にも、どこかの職場に存在するようです。そして、そんな職場では、組織機能はマヒして士気も業績も低下し、誰かを悪者にしてその責任を押しつけ合っているのです。

 水と空気だけで生きていくことができないように、会社組織が進化・発展していくためには、安全と利益、そして何よりも上下左右の信頼関係とコミュニケーションが不可欠なのだと思われます。安全と利益が支え合うように、信頼関係とコミュニケーションが安全と利益を押し上げ、会社を進化・発展させていくに違いないのです。そして、交通安全意識こそ、誰にも必要とされる普遍的な基本認識として、すべての社員が共有すべきものなのだと思っています。