法が規制するもの

2022年 4月号

 令和3年6月に千葉県八街市で発生した飲酒運転による交通死亡事故を踏まえ、国は道路交通法施行規則を改正した。
 これまで、安全運転管理者には、運転前に飲酒により正常な運転をすることができないおそれがあるかどうかを確認すること等は義務付けられていたものの、運転後の酒気帯びの有無を確認することやその確認内容を記録することは義務付けられておらず、その確認方法も具体的に定められていなかった。
 今回の改正内容については、
 1 令和4年4月1日から施行されるもの
  (1) 運転前後の運転者の状態を目視等で確認することにより、酒気帯びの有無を確認すること
  (2) その内容を記録し、1年間保存すること
 2 令和4年10月1日から施行されるもの
(1) 上記の確認を、アルコール検知器を用いて行うこと
(2) アルコール検知器を常時有効に保持すること
などである。
 
 さて、刑法が「殺人罪」を定めているのは、それが人として許されない行為だからである。国民が安心して暮らしていくためには、相応の社会秩序が維持されていなければならないが、道徳的・社会的な批判では足りず、国が刑罰を持って対処しなければならない悪質な人の行為、その類型が犯罪である。
 こうした処罰される行為を明確にすることによって国民の自由や権利を保障する、これが刑事法の役割のひとつである。つまり、刑法といえども人の行為を規制することを目的とするのではない。刑事法とは、国民がその法を遵守することによって社会秩序を維持し、安全で公平な社会を実現しようとする国の制度である。
 したがって、人は法に拘束されるものではない。法を作り、執行することで社会秩序を維持すること、それは国のためではなく国民のための仕組みだからである。新たな法(刑罰)の新設とは、社会の仕組みを変化させることによってより安全で公平な社会を実現しようとする国の国民に向けた施策の提案である。
 
 道路交通法(施行規則)は行政法令であることから、なおさら人の行動を規制しようとするものではない。今回の改正であれば、企業経営者や安全運転管理者、運転者などに対してそれぞれの立場から改正された内容の遵守を呼びかけ、これを実践することを通じて安全で快適な交通環境を実現しようとするものである。
 刑法にはすべて罰則が付されているが、道路交通法施行規則には罰則のない義務規定も存在する。このことは、同規則が安全運転管理者等に罰則を持って行為を強制したり行動を規制するものではなく、企業の社会的責任に基づいた新しい施策・対策への参画を呼びかけ、企業・国民の積極的な参画を通じて新しい交通環境の実現を目的とするものであることを示している。
 
 法(規則)の改正が目的とする新たな制度の実現とは、過去の反省すべき交通事故への対応を通じて安全で快適な交通環境を実現することにある。
 交通事故は過失によって発生するが、飲酒して運転する行為は故意であり、厳しく批判されるべきは当然である。そして、それは「ながら運転」も同じであり、スマホを操作しながら運転する行為が故意であることを考えれば、同様に厳しく批判されるべきである。
 この機会に、私たちは飲酒運転への対策にとどまらず、「ながら運転」への対策を含めた安全運転管理に取り組むべきである。あの交通事故の反省教訓とは、新しい安全運転管理の実現を私たち自身の目的とすることであり、全国の安全運転管理者と共に安全な交通環境を実現することである。