牡丹の花

2026年 5月号

 庭で牡丹の花を育てている。全部で七本の牡丹は、それぞれ花の色も形も違い、咲く時期も同じではない。花が咲くわずか二週間のために、年間を通じて世話をするが、同じように世話をしても、同じように育つことはない。
 警察官も人それぞれである。指導の内容をすぐに理解する者と、なかなか理解できない者がいる。そして、理解しても、すぐに忘れる者といつまでも忘れない者がいる。
 一般的には、すぐに理解して忘れない者が優れていると評価されるが、必ずしもそうではない。指導された内容を知識として理解するだけでは足りないからだ。理解するために時間がかかっても、その目的や将来の課題などについて、自ら疑問を抱き、考え続けることのできる者こそ、優れた、大切な人材である。
 
 警察官の仕事は多種多様であるが、交通違反の検挙については、検挙件数の多い警察官が優秀なのではない。
 交通違反を検挙する目的は、検挙活動を通じてドライバーの運転行動を変化させ、将来の事故を防ぐことにある。そして、それを積み重ねることによって交通環境を変化させ、交通事故を減少させること、より多くの人の命を守ること、これが取締検挙活動の目的である。
 そのため、警察官には、違反者の安全意識を高め、運転行動を変化させるほどの熱意が必要である。しかし、大半の違反者は、警察官の説明など聞こうともしない。そして、警察官の多くはあきらめ、黙って違反処理を行う。
 
 私は、若い警察官に向けて話していた。
 「そこであきらめたらダメなんだ。文句を言われても、我慢して本気で説明するんだ。“あなたがこんな運転を続けていれば、いつか事故を起こすことになります。今日、検挙されたことを忘れずに、運転行動を変えてください。そうすることで、あなたの将来の事故を防ぐことができるのです。これからもずっと、交通事故の加害者にも被害者にもならないでください”と、本気で説明することが大切なんだ」
 すると、その場に居合わせた、ベテラン警察官が呟いた。
 「署長の言われることはわかります。しかし、違反者は、検挙されたことに不満を抱き、将来の話など聞いてくれません。それが現実です」
 「そんなことは私にもわかる。では、君は、これまでに何人の違反者に対して、その将来を思って本気で指導したのか。十人とか百人とか、そんなつまらない答えは聞きたくない。
 君がこれまで検挙した千人の違反者に対して、本気で説得していれば、そのうちの何人かは、家に帰って、君の話を思い出していたはずだ。
 ある違反者は、現場では腹が立って反発したけど、君の熱心な言葉を思い出し、反省して運転行動を変えてくれたかもしれない。
 私は、それが警察官の仕事なのだと思っている。
 検挙件数は決して無駄ではない。しかし、君たちが本気になって説得し、検挙されたドライバーが君たちの言葉を思い出すこと、それこそが警察官の仕事なのだ。
 君たちの気持ちが違反者に届いたのかどうか、その数を数えることなどできない。でも、私はそこに、警察官としての仕事の価値を見ている。だから、あきらめるな。へこたれるな。君たちの気持ちはきっと届く」

 警察官もそれぞれ。私の言葉をすぐに理解できなくてもいいけれど、理解できたら、ずっと忘れないでいてほしい。……牡丹の花を眺めながら、そう思い続けているのです。