車内は職場

2022年 7月号

 仕事で社用車を運転している時、その車内は職場そのものであることを忘れていませんか。
 材料や製品を運ぶといった輸送車両を運転するドライバーには運転することそのものが仕事であるという意識がありますが、営業担当者などは取引先で商談することが仕事であり、そこまで社用車を運転して行くことは仕事(商談)のための手段にすぎないと軽く考えていることが多いようです。
 
 さて、警察署の社用車には白黒のパトカーだけではなく、刑事などが捜査に使う捜査用車(ごく普通の乗用車)があります。しかし、パトカーはいつもピカピカできれいにしてあるのに、刑事の車両はほとんどが汚れたままでした。
 警察署の安全運転管理者である警務課長は、「汚い車は事故を起こす。刑事はきちんと車を洗ってもっときれいに使いなさい。自分の車だと思って大切にしなさい」と指示していましたが、その時に洗うだけで、すぐまた汚くなっていました。
 当時の私にはその理由がよく理解できませんでした。パトカーの乗務員は交代制であり、同じパトカーを運転します。交代時には洗車し、ガソリンを満タンにした上で車両点検を行って引き継ぎます。しかし、刑事は同じ車両を運転するとは限らず、残っている車両を運転することになります。
 若い頃の私も捜査用車を大切にしなかったように記憶していますが、それは自分の運転する車が決まっていないために大事にする気持ちが持てないのだろうと、漠然とそんなことを考えていました。
 
 しかし、そんなことが理由ではなかったようです。
 パトカー勤務員は、常に歩行者や他のドライバーから見られていることを意識して運転しています。パトカーが街中を走行する目的とは、不審者を発見して職務質問すること、事件・事故への迅速な対応などですが、特に通常走行時は、法令を守るだけではなく模範的な運転をしなければならないことを十分に理解しています。
 一方、刑事は、捜査のことが頭から離れず、違反や事故には気を付けているものの運転そのものへの意識が十分だとはいえません。つまり、パトカー勤務員にとっては、パトカーを運転することそのものが自分の大切な仕事であるのに対し、刑事にとって捜査用車を運転することは、捜査の目的を果たすための単なる手段に過ぎないと考えていることに気付きました。
 こうした考え方の違いが車を大切にする意識の違いを生み、運転することへの理解や認識の違いにつながっていたように思います。
 
 事業所のドライブレコーダーを拝見すると、大音量のラジオの音が聞こえたり、飛び出してきた自転車や歩行者に対して怒鳴ったり、罵ったりする言葉が残されています。事務所内であれば、ラジオを聞きながら仕事をすることや、罵声を発することなど考えられませんが、車内でラジオを聞き、聞くに堪えない言葉が発せられるのは、車内が職場であることを忘れているからだと思われます。
 車内は職場なのですから、誰に見られても恥ずかしくない運転こそがドライバーの仕事です。しかも、車内は「上司のいない職場」なのですから、より自らを戒めることが求められています。
 つまり、車内が職場であることを理解して安全運転を続けることができる社員を育てることとは、上司のいない場面でも誠実で的確な仕事ができる社員を育てることに等しく、それは会社・事業所全体の安全管理、組織管理にとって最も重要な課題そのものなのだと考えることができます。
 そして、マイカーの車内は家族を守る場所なのですから、家族に恥ずかしくない運転、胸を張っていられる運転を続けることの大切さは申し上げるまでもありません。