道交法改正・罰則強化の意味

2019年11月号

 いわゆる「ながら運転」「スマホ運転」の罰則強化を含む改正道路交通法は12月1日に施行され、一般的な普通車の違反は点数が1点から3点、反則金は6千円から1万8千円へと3倍になり、これは25km/h以上の速度違反と同じ点数・反則金額となります。
 この背景として、運転中の携帯電話の使用等は極めて危険な行為でありながら日常的頻繁に繰り返され、これによる交通事故が増加傾向にあることが指摘されています。平成30年中の携帯電話使用等による交通事故件数は、5年前と比較して1.4倍、10年前の2.1倍に増えていると説明されています。
 さて、各事業所では「ながら運転」「スマホ運転」など絶対にするなと繰り返し指導されていることでしょう。それなのに、少しくらいなら大丈夫、とスマホを操作しながら運転して事故を起こしてしまいます。現場に来た警察官から事故の原因を問われて上司の顔を思い出し、「スマホ」を見ていたと正直に答えられれず、つい嘘の説明をすることも少なくないはずです。だとすれば、5年前の1.4倍、10年前の2.1倍なのではなく、5年前の5倍、10年前の10倍というのが現実なのかもしれません。

 そして、こんな質問を受けることがあります。「赤信号で止まっているときならスマホを使っても合法ですよね?」「電話をするなら、イヤフォンを使えば大丈夫ですよね?」……それは、検挙されないための質問です。つまり、その運転が事故を防ぐための安全運転であるか否かではなく、検挙されなければそれでいいという考え方です。
 
 もう一度思い出してみませんか。「法律は最低の道徳」です。私たちの国、私たちの社会は、国民である私たちに権利を保障するのと同時に義務を果たすことを求め、国民・社会人としてふさわしい人格・識見を備えた人であること、その行動を期待しています。
 すなわち、法律は、それを守っていれば正しいのではなく、それすら守れないのであれば社会的な制裁を科すことを明記しているだけであって、私たちの行動規範は法律なのではありません。
 検挙されなければいい、検挙されたら運が悪い、事故をすれば相手が悪い、相手が悪ければ仕方がないなど、どんな言い訳を用意しても、起こしてしまった事故の責任を免れることはできません。失われた命が帰ってくることはありません。

 電車に乗って座っていたあなたは、杖や荷物を持った高齢者が乗ってくればその席を譲るでしょう。それは、検挙されるからではありませんね。それは、あなたの高齢者に対する敬意の表現であり、そうしなければ落ち着かないあなたの良心の故でしょう。
 そんな気持ちを車の中、運転中も持ち続けていたいものです。人は空を飛ぶことなどできないのですから、人も車も行き交うこの道路の上で、歩行者を守る運転こそがドライバーの義務なのだと考え、歩行者を守る運転、それを続けることに価値を認めましょう。法を守り、安全運転を続けることとは、他人の命を守るだけではなく、自分と家族の人生を守ることなのです。

 自動車の安全機能が急速に進化する今日、罰則の有無強弱で自分の行動を規制するのではなく、私たち自身の良心に基づいて車を運転することが期待されています。今回の道交法改正・罰則強化とは、罰則などなくても自分自身の判断に基づいて正しい運転行動をとり続ける信頼すべきドライバーに向けたエール(応援)なのだと考えています。